季節によって気温差が大きい日本の住宅では、住まいの断熱が欠かせません。断熱工法にはいくつか種類がありますが、その中でも注目なのが、「吹き付け断熱」です。優れた断熱性能が特徴の吹き付け断熱は、寒い地域の住宅に向いています。
吹き付け断熱は、名前からも分かるように断熱材を吹き付ける工法です。雨風をしのぐために断熱材は必要ありません。ですが、高い断熱性は生活を快適にしてくれます。
断熱材は一切熱を通さないわけではありませんが、住宅内を過ごしやすく保つために、大きく役立ちます。断熱性が優れていれば、屋外の暑さや寒さの影響をやわらげてくれるでしょう。
今回のコラムでは、吹き付け断熱の特徴や種類、メリットやデメリットについて解説します。
目次
吹き付け断熱の特徴
心地よく快適に過ごせる住まいには、優れた断熱性能が欠かせません。屋外の暑さや寒さから室温が受ける影響を防ぐには、壁と壁の間に断熱材を入れて隙間を埋める必要があります。また、断熱材の種類をどれにするかも重要なポイントです。「吹き付け断熱」とは工法の名称で、霧状の断熱材を天井や壁に吹き付け発泡体にし、住宅の断熱性を向上させます。
吹き付け断熱に使用される断熱材は「発泡性ウレタン」と呼ばれる素材で、霧にした液状の基材を吹き付けることで、スポンジ状に変化します。
スポンジ状に硬くなった発泡性ウレタンの中にはいくつもの小さな気泡ができ、気泡に空気が閉じ込められ、従来の断熱材と比較して優れた断熱性能を発揮するでしょう。また、基材が霧状なので隙間なく断熱材を貼れ、さらに気密性を向上させられます。
これらの優れた特徴から、吹き付け断熱材は公共施設などにも使われており、注目を集めている素材です。
吹き付け断熱の種類
そんな優れた断熱性を持つ吹き付け断熱ですが、使用される断熱材の種類は2つあります。
軟質ウレタン
軟質ウレタンは、名前からも分かるように軽量で柔らかく、水や空気が通りやすくスポンジのような特徴を持つ素材です。霧状に吹き付けると100倍にも膨れあがるため、「100倍発泡」と呼ばれることも。気泡が連続していて復元性のある素材です。
硬質ウレタン
それに比べ、硬質ウレタンは硬く、気泡が独立していて復元性はありません。ですが、湿気に強く空気を遮断するため断熱性に優れていています。そのため、吹き付け断熱では硬質ウレタンが使用されることがほとんどです。硬質ウレタンは「30倍発泡」」と呼ばれていて、「フロン」か「ノンフロン」かでも断熱性能に違いがあり、フロンのほうが高い断熱性を持っています。
吹き付け断熱を使う4つのメリット
隙間を作らずに貼れる吹き付け断熱は高い断熱性を持ち、特に寒い地域の住宅に適しています。ですが、吹き付け断熱材を採用するメリットはそれだけではありません。ここでは、下記の4つのメリットについて、それぞれ詳しく解説します。
- 断熱性や気密性、低温特性が高い
- 細かな部分も隙間なく均一に断熱しやすい
- 優れた接着力で結露が起きにくい
- 防音効果が期待できる
1.断熱性や気密性、低温特性が高い
吹き付け断熱で使用される発泡ウレタンは、寒い季節の上着のように中に空気を多く含んでいるため、室内の温度を調整できます。空気は熱を伝えにくく、住宅を気泡で包めば暑い季節には熱波、寒い季節には外からの冷気を遮断してくるでしょう。また、発泡ウレタンは他の断熱材よりも強い接着力を持ち、構造が複雑でも断熱材で隙間なく埋められます。そのため、断熱効果だけではなく、気密効果も向上するのが吹き付け断熱材の特徴です。-60度の極端な低温でも高い性能が期待できるなど、寒さが厳しい地域での施工に適しています。
寒い時期だけでなく、暑い時期にも屋内の冷たい空気を閉じ込めるので、エアコンの稼働に必要な電気代も抑えられます。優れた断熱性能の他にも、低温特性や機能性が高く、光熱費を節約できる点もメリットです。
2.細かな部分も隙間なく均一に断熱しやすい
複雑な部分も隙間なく埋められる吹き付け断熱は、細かい部分まで均一に断熱しやすい点もメリットです。断熱材を吹き付けるため、凹凸のある部分や複雑な構造でも均一に施工できます。
3.優れた接着力で結露が起きにくい
発泡ウレタンは他の断熱材と比較して、優れた接着力を持っています。吹き付けてから時間が経過してもくずれにくく、地震で住宅が揺れても剥がれ落ちる心配はありません。経年劣化が原因の住宅の歪みにも強いので、優れた断熱性能を長期間維持できます。
また、気密性にも優れているため、施工後には見えない壁内部の結露が起きにくくなります。住宅にとって結露は厄介な存在で、木材が腐る要因です。結露に対処せず放置していると「腐朽菌(ふきゅうきん)」と呼ばれる菌が発生し、木を腐らせることがあります。
水分や適温、酸素、木材などの養分が腐朽菌の発生要因です。ですが、一般の住宅は水分や適温、養分といった要因に対処できません。
そのため、結露の発生を抑えることが、木材の腐食防止に繋がります。また、結露は木材を腐らせるだけでなく、カビが発生する要因にもなり、そうなれば身体にも悪影響です。
カビは気管支炎やぜん息、アトピー性皮膚炎などの要因となり、特に小さな子どもは影響を受けやすいです。吹き付け断熱で住宅を断熱すれば、カビの発生を抑制して衛生的な環境で生活できるだけでなく、住宅の寿命を伸ばせます。
4.防音効果が期待できる
発泡性ウレタンは吹き付けるとスポンジ状になるため、防音効果もあります。防音にも種類があり、その場所で発生した音の反響を減らすのが「吸音」で、音の透過を妨げるのが「遮音」です。スポンジ状の発泡性ウレタンで隙間を作らずに埋める吹き付け断熱では、壁内に空気を多く含むため、外部からの音を遮断する「遮音性能」に優れています。
車通りの多い道路に面している住宅や、大きな音が気になる立地にも、吹き付け断熱はピッタリです。
吹き付け断熱を使う5つのデメリット
吹き付け断熱を使用した断熱には多くのメリットがありますが、デメリットも存在します。吹き付け断熱のデメリットは次の5つです。
- 他の断熱材と比較して高価
- 施工には一定の技術が必要
- 他の断熱材と比較して、シロアリ被害を受けやすい
- 木造住宅に施工すると、時間経過で隙間ができる
- 解体時は木材と断熱材の分別処理が難しい
それぞれのデメリットについて、詳しく解説します。
1.他の断熱材と比較して高価
吹き付け断熱は、他の断熱材と比較して高価な点がデメリットです。例えば、「グラスウール」は安価なボード式断熱材で、価格は吹き付け断熱の3分の1程です。また、吹き付け断熱を使用する場合は、天井や壁を隙間なく埋めるため、住宅の広さによって費用も変わります。
広い建物や複雑な構造をした住宅の場合、費用が高額になるため、予算に合わない場合はグラスウールの使用を考えましょう。
2.施工には一定の技術が必要
吹き付け断熱の施工には、一定の技術が必要です。吹き付け断熱を使用する場合、発泡性ウレタンを敷き詰めるのではなく、現場で吹き付けて貼ります。実際に作業する人の技術に左右されるため、均一に仕上がらないこともあるでしょう。施工技術が不足していると、隙間が生じてしまい、断熱や防音などの効果が低下します。
そのため、一定の技術力を持つ作業員がいる施工会社が施工しなければ、吹き付け断熱工事の本来の効果を得られません。施工後に後悔しないためにも、吹き付け断熱を依頼する前に、施工会社の実績をしっかりと確認しましょう。
3.他の断熱材と比較して、シロアリ被害を受けやすい
断熱材は、素材によってはシロアリの通り道になることがあります。特に、吹き付け断熱で使う発泡ウレタンは、被害を受けやすいため気を付けましょう。
シロアリが入り込んでも外からは見えないこともあり、なかなか気付けず、被害が拡大する危険性もあります。新築の住宅でも、シロアリ被害を確実には防げません。そのため、防蟻対策を施していても、定期的に点検する必要があります。また、断熱材を選ぶ際は、防蟻処理などのシロアリ対策がなされているかも考慮しましょう。
4.木造住宅に施工すると、時間経過で隙間ができる
木造住宅に施工する場合でも、吹き付け断熱を使用できます。ですが、施工時は木材に断熱材が密着して隙間なく埋まっていても、時間が経つにつれて隙間が生じます。これは、時間とともに縮んでいく木材の性質上、仕方ないことです。
5.解体時の断熱材と木材の分別処理が困難
木造住宅の断熱に吹き付け断熱を使用する際は、木材との相性も考慮しておきましょう。吹き付け断熱に使用される発泡ウレタンの強力な接着力は、施工後の優れた気密性や断熱性に繋がっていますが、解体の際に断熱材と木材を分別処理することを困難にしています。
木材は、発泡ウレタンと分別しないと再利用できません。再利用できないと、処分に高いコストがかかる産業廃棄物になり、解体の際にかかる費用も多くなります。断熱材を選択する際には、性能面だけではなく解体時にかかるコストも考慮しましょう。
吹き付け断熱とグラスウールの違いとは
吹き付け断熱以外で、よく利用される断熱施工法に「グラスウール」があります。グラスウールは、ガラスを細く糸状に加工した断熱材です。グラスウールは、原材料にリサイクルガラスを多く使用しているため、環境にも優しく、吹き付け断熱と比較して安価です。また、ガラスウールの特徴として、ガラスを使用して作られているため、虫が食いにくいことがあげられます。
また、ガラスは不燃性なので燃えにくく、もし火災が発生しても有毒ガスが発生しません。壁の中に不燃性の素材であるグラスウールが詰まっていれば、近隣で火事が発生して家の壁が数百度に熱されても、延焼を防止できます。
ですが、吹き付け断熱と比較すると吸湿性には期待できません。そのため、湿気が多くなると断熱性能が低下することがあります。グラスウールの施工では、綿状の材料を敷き詰めていきます。優れた断熱性能を引き出すためには、壁の間を断熱材で隙間なく埋めなければならず、その点では、グラスウールも吹き付け断熱と同様です。
グラスウールは発泡性ウレタンのように柔軟性があります。吹き付け断熱と同様に、枠に合わせてきっちりと貼られていれば、経年による家の歪みや地震による揺れがあっても、隙間が生じにくいです。断熱材を選択する際には、2つの断熱材の違いや特徴を考慮したうえで、建物や地域に合わせたものにしましょう。
まとめ
吹き付け断熱は、霧状の発泡ウレタンを壁の内側に吹き付ける断熱施工法の一つです。発泡ウレタンを吹き付けると膨らんでスポンジ状に変化し、気泡の内部に空気を含みます。そのため、寒い時期に着る上着のように、優れた断熱性に期待できるでしょう。また、壁の内側を隙間なく埋められるため、気密性にも優れています。
優れた断熱性と気密性が室内の温度を逃さないため、寒い地域での住宅にもピッタリです。ですが、グラスウールなどと比較して高価な点や、施工には一定の技術が必要な点も難点として挙げられます。断熱材を選択する際には素材の特徴を考慮して、建物や地域に応じたものを選びましょう!